アーサー王の死
これ以上ないくらい有名な、アーサー王の本を読もうと思ったきっかけは、下記の2つのマンガにある。
ひとつめは、高河ゆん著の『超獣伝説ゲシュタルト』。
このマンガに「ランスロット」が登場していて、他でもよく見かける名前だし、興味が引かれた。
ふたつめは、名香智子の[1]『ふんわり狩人狩人』と『レディ・ギネヴィア』のシリーズ。ここで登場するのは、アウル学院の理事長にしてキング公爵家の長男サー・アー サー・キングとその妹のギネヴィア・キングである。
そんな二編のマンガの事もあり、これはぜひに本家の「アーサー王伝説を読まねばならぬ」と思い、この本を購入したのだった[2]。
と、こんなわけでこの本を読み始めたので、この伝説の主人公(と言い切れるか微妙だが[3])について、ずーっと、
貴族的で、気品にみち、高潔な紳士だけれど単純バカなサー・アーサー・キング[4]
の外見で想像していた。もう、申し訳ないがそれ以外では読めない。
そのせいだと思うけれど、この「過去ノ王ニシテ未来ノ王」なるアーサーがアホに見えて仕方がなかった。そういう風に読むのは邪道だと思うけれど、個人的には実に楽しく読めた。なにせ何かにつけて、たて巻ロールの黒髪で気絶したりするのだ。おかしいに決まっている。
それにしても、訳者の厨川文夫・圭子氏は文章が下手すぎる。この際、1471年という15世紀の半ごろには天に召されている著者、トマス・マロリー卿 の文体の良し悪しは無視する。シェイクスピアじゃあるまいし、5世紀も前の人の文章の良し悪しなんて判断基準外だ。
正直、読むのが凄く大変だった。自分に引き寄せて楽しんで読まなければ、完読できなかっただろう。なにせ、意味が通じないところがあるのだ。なんとか考へてわかるという。これが訳者のせいでなくてなんなのか。丸谷[5]が見たら声も出ないんぢやないでせうか。だつてまづ、伝達が第一だといふのに、意味が通じないんぢやねえ。お話にならない。
どうも読んでいると、「解説 マロリーとアーサー王物語」という100%訳者の文章のところなんて、てんで理解不能の悪文で、解説を書いている厨川文夫氏の文章がヘタらしいとわかる。
アーサー伝説についての知識多少なりともある人にはわかるのかもしれないが、少なくとも全くの初心者にわかるようには書かれていない。キャクストン版だの、ウィンチェスター写本だの、書いてもいいけどわかるように解説してくれてこそだろう。これではちっとも「解説」にならない。
読み辛さ100%の『アーサー王の死』だけれど、内容についても少し書きとめておく。
個人的にすごく面白かったのは、不謹慎だけど、騎士とか呼ばれちゃってる人々が(もちろんアーサーも)すぐ気絶しちゃう事だ。何なんだ、一体。
ショックのあまりなんだろうが、みんなバカバカ気絶するんで、おかしいったらない。おまけにランスロットなんて王妃に口汚く罵られて発狂しちゃうのだ。
そりゃあショックな言葉を投げ付けられたのかもしれないし、しかも最愛の人からなんだから、単なるショックじゃおさまらないくらいの打撃なのかもしれないけどさ。発狂までするか??こういう事で発狂するんだから、気絶するくらい訳ないことだろう。
また、トリスタンとイゾルデがアーサー王伝説からのお話だという事、そして二人の悲哀物語のあらすじもわかった。そうだったのか。これでラヴェルの「トリスタンとイゾルデ」をもう一度聴いてみることにしよう。
というわけで、とっても読みにくい文章だったけれど、名香智子のおかげで案外楽しく読めた。
ただ、地理関係がよくわからなかったので、歴史の資料集を見るなり、地図帳を見るなりしたい。地理的な事って案外よくわからないものである。
Original: "Le Morted Authur", 1485
notes
[1] 筆者は名香智子のファン。『ふんわり狩人狩人』『レディ・ギネヴィア』ともに現在文庫で読む事ができる。
[2] 理由がアホ過ぎる。
[3] 言うまでもないがランスロットもかなり出ばっている。
[4] この文句は覚書をするために前々から考えて温めていたものなので、やっと使えて嬉しい。サー・アーサー・キングを言い表わしているよ言えよう。御満悦。
名香智子の描くサー・アーサーは、背が高く痩せていて、漆黒の長い髪は細かいたて巻きロールになっており、手入れは怠らない。真面目で非常に繊細。
(↓噂のアーサー・キング氏)
[5] 日本語に造詣の深い作家・丸谷才一のこと。旧仮名遣いで文章を書く。
- 作者: トマス・マロリー,William Caxton,ウィリアム・キャクストン,厨川圭子,厨川文夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1986/09/01
- メディア: 文庫
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