読書百冊意自通ズ覚書

読んだあと、何かしらの余韻を残していく物語たちを、みんなどんな風に読んでいるのだろう?The note of reading one hundred books makes you understand more clearly.

愛は試練に満ちて―パーフェクト・ファミリー―

パーフェクト・ファミリーのシリーズで、初めて続きが気になる、と楽しみにしていた本書。

 前作[1]から、問題が起きそうなまま終わってしまった、リビーとキャスパーという二人の夫婦の物語である。

 

 この二人が、「幸せな結婚」というハーレクイン的結末のあと、夫婦の間に生ずる問題をいかに乗り越えていくか、というところが話の肝だったと思うのだけれど、しかしそれ以前に、作者はとにかく色々な人物のことを書きすぎており、残念ながらポイントが絞りきられていない、というのが最大の難点だった思う。

 この点については以前にも書いた気がするので、それはつまり、それまで(パーフェクト・ファミリー)の作品も同じような傾向にあったということで……。……。

愛は試練に満ちて (ハーレクインプレゼンツスペシャル―パーフェクト・ファミリー (PS19))

愛は試練に満ちて (ハーレクインプレゼンツスペシャル―パーフェクト・ファミリー (PS19))

 

 

 不幸な少女時代を送った主人公リビー、そのトラウマから生まれる猜疑心によって、夫・キャスパーとの家庭が崩れていく。

 その中で、リビーのトラウマの原因である前作の主人公、改心天使(?)のデイビット・クライトンとその妻・オナーの間に生まれる子供のこと、とかは、まぁいい。

 デイビットが戻ってきたことが、主人公夫婦の問題の大きな解決の糸口になるわけだし、ジェニーがデイビットデイビット、と嬉しそうなジョスにちょっとした不安や嫉妬なんか感じちゃうドラマがあっても、まぁいいさ。(この時点ですでに、余談の多さ具合がわかろうというものだけど……)

 

 だけどさ。

 

 なんでそこで、ニックとセーラの本気の恋愛が描かれなあかんのや。

 これ一つでハーレクイン一冊になるんだから、そっちで書けばいいじゃん。

 

 それとさ。

 ジャックとアナリスの幼い恋もいらんぜよ。

 次のパーフェクト・ファミリーは、大人になったこの二人にするつもりなのかと思わないでもないけど。

 

 あとさ。

 マディとマックスのストーリーもくどいんじゃー!!

 

 ベンを死なせる方向へ持って行ったり、マディにクイーンズ・メッドを相続させる流れとしてはありかもしれないし、ベンが亡くなったのはストーリ的にちょうどいいタイミングだったと思う。第一の改心者・マックスの良い人度を披露するのも忘れないあたりはさすが!なのかもしれないけど、このエピソードいらないのでは?

 

 そんなこんなで、そこかしこにジャマ〜なエピソード群が!もはや群が。

 これらの諸々のエピソードのおかげで、主人公・リビーの心の動きを描く部分が減ってしまったし、その夫(って準主役級のはず)・キャスパーに至っては、ほとんど出てこないやないかー!!

 この二人の話がメインなのに!

 

 相変わらず、リビーの揺れ動く心理描写は圧巻もので、それだけにインフルエンザにかかって弱気になったところで、デイビットとの和解が始まる、なんて形ではなくて、もっと些細な出来事を積み重ねて書き込んで、心を開くありさまを描いて欲しかった……。だってこの作者なら書けるはず。その素晴らしい心理描写が。

 キャスパーの心の動きも、正直全然足りなかった。

 モリーとの出会いで心が揺れて、逆にリビーへの愛情を確かめた、という設定だけど、だいたいちょい役の(重要な役割だったけど)モリーの抱えている問題が重すぎる。この人も、別の機会に主人公にするつもりなのかな、なんて思わせる感じだ。

 

 総じて、リビーとキャスパーの心の動きをもっと描いて欲しかった。キャスパーなんてさ、本当に少ししか出てこないんだもんな。

 リビーがデイビットに対する強い拒絶心を、いろいろな出来事を通してどうやって――どんな過程を経て――克服していくのかを、乗り越えていくのかを、読みたかった。

 

 次は、今回未解決だったジャック・クライトンとアナリス・クックがくっつくまでだろうか。あとがきによると、今回でパーフェクト・ファミリーは十作目ということで、ベン・クライトンもお迎えが来て、クイーンズ・メッドも正当たる後継者・マディに渡ったことだし、若い二人以外はいちおう落ち着いて幸せを手に入れたわけで、作者にはそろそろ違う長編に取り組んでみてほしい。『パワー・プレイ』とか『残酷な遺産』[2]とか、あんな感じのよくまとまった、完成度の高い作品を希望する。

 

 でもやはり、ペニーは文章がうまい。訳者の霜月氏も相当のベテランと思われるので、安心して読めるところがよかった。そして彼女の次の長編にも、期待してしまうのだった。

 だってこんなにけなしているけど、やぱり面白いんだもんね。

 

Original: Starting Over by Penny Jordan, 2001

 

notes

[1] 前作はこちら。

[2] 両方長編。

パワー・プレイ (MIRA文庫)

パワー・プレイ (MIRA文庫)

 
残酷な遺産 上 (MIRA文庫)

残酷な遺産 上 (MIRA文庫)

 
残酷な遺産 下 (MIRA文庫)

残酷な遺産 下 (MIRA文庫)