読書百冊意自通ズ覚書

読んだあと、何かしらの余韻を残していく物語たちを、みんなどんな風に読んでいるのだろう?The note of reading one hundred books makes you understand more clearly.

恐怖の谷

ドイル卿、加えて私の好きな翻訳者、阿部知ニ[1]氏。こういう組合せになると、訳がうまいとか下手とかいう事に気を取られなくていい。その先のところから始められる。

 巻末の解説によると、

「内外を問わずドイルの長篇では『バスカヴィル家の犬』がもっとも好評を博しているが、ディクスン・カー [2]の ごときはベスト・テンの筆頭に『恐怖の谷』をあげているほど(P.249)」

という事らしいが、この意見に積極的に賛同したい。


 本作品は長編全体が二部構成になっており、その第一部、第二部が最初全く違う物語として始まり、次第に関連性を帯び、ひとつの物語となってゆく様は圧巻だ。

 こういう二部構成の書き方は、自分はドイル卿で初めて読んだのだけれど、それにしても今回の第二部の出来の良さ、そしてそれを更に高めている大どんでん、、、、返し――には正直あっけ、、、に取られて、開いた口がしばらく塞がらない、といった有り様だった。

 

 こういう表現がちょっと大げさだったにせよ、全く不当ではなく、大変良くできた面白い物語であった事は疑う余地もない。

 巻頭のメモに、「第二部は、 それだけ独立させても充分な謎と意外性を秘めている。」とあり、その「謎と意外性」が一体どんなものなのか、目をこらして読んでいるにも関わらず、やはり 非常な驚きを受けてしまうのだ。


 正義の人、ジョン・マックマードとハーディ・エドワーズに哀悼の意をこめて。

 

Original: "THE VALLEY OF FEAR", 1915

 

notes
[1] 阿部知ニ氏訳で初めて読んだのはエミリ・ブロンテの『嵐ヶ丘』だったが、阿部氏の訳なくして完読できたか怪しいものだ。(キャシー嫌いだから…)それ以来、私は阿部氏の訳を好んで読んでいる。
[2] アガサ・クリスティーエラリー・クイーンらと並び称される本格黄金時代を代表するアメリカのミステリ作家。