読書百冊意自通ズ覚書

読んだあと、何かしらの余韻を残していく物語たちを、みんなどんな風に読んでいるのだろう?The note of reading one hundred books makes you understand more clearly.

アーサー王ロマンス

続けて読めばもっと理解も深まるだろうと思い、『アーサー王の死』の次[1]はこの本を読もうと決めていた。ある分野の本を統計的に読むと、それぞれの本が互いを補いあうので、理解を深めるにはとてもいい。[2]

 

 この順序についておいてよかったと、読み始めてつくづく思った。はっきり言って『アーサー王の死』より格段に読みやすい。もしこちらを先に読んでいたら、『アーサー王の死』は読みにくすぎて最後まで読めなかったんじゃなかろうか。

 

 また、『アーサー王の死』はアーサーの誕生から死までを、ひとつの物語として連続的に描いているのに対し、本書はエピソード別に分かれているので、先に時間軸的な流れを知ってからエピソードで補完する、という意味でも、この順番で読んで正解だった。『アーサー王の死』は小説的で、『アーサー王 ロマンス』は解説的なのだ。

 ゆえに、前書ではメインストーリー以外の番外編的なエピソード群はどうしても描ききれないのだが、本書は本筋には直接関係ないが、伝説としては有名なエピソード[3]が押さえてあり、充実度が高く非常によかった。

 本筋には直接関係なくても、あなりにも有名すぎるエピソードも多いし、それらはこの伝説について知りたいなら、当然読みたいエピソードだと思う。

アーサー王ロマンス (ちくま文庫)

アーサー王ロマンス (ちくま文庫)

 

 話の筋としては、本筋の部分はほとんど『アーサー王の死』と同じなので、確認して読み進める感じだった。新しい要素であるエピソード的なものの中でも、特に「聖杯探究」と「トリスタンとイゾルデの物語」の二つのエピソードのウエイトが大きいといえよう。

 聖杯探究は、やはりキリスト教色の濃いエピソードと言えるだろう。

 聖杯の起こす奇蹟――例えばランスロットを狂気の淵から救い出すなど――はキリスト教の奇蹟だ。余談だが、聖杯と共に並び称される「聖なる槍」なるものが存在する事を今回初めて知った。なるほど、これがロンギウスの槍なのか……。

 

 ランスロットが聖杯を手にできない事は尤もだと思った。

 そして息子ガラハッドが純潔のうちに聖杯を手にし、神に召されるのに納得。純潔って大切なのだ。

 しかし、ガラハッドのような聖人騎士がこんなに若くして神に召されるのはもったいない気がする。一般的には、こんなに純粋で真面目すぎる聖人ガラハッド卿より、ランスロットの方が人間味に溢れていて親しみやすいのかもしれないとも思った。

 トリスタンとイゾルデの話はストーリーがやっと[4]わかってよかった!

 この2人の恋愛は、グネヴィア王妃とランスロットの恋と同じ扱いのようだけれど、個人的には、この二人はお互い始めに出会っていて、イゾルデは仕方なく違う男に嫁がなきゃならないわけで、こっちのがなんとなく許せる。悲恋ものですナ。

 著者の井村氏はケルト神話関係の専門家のらしい。

 本文中でもケルトの英雄、クーフーリン[5]にもよく触れており、著者の今までの作品を後から見てみたら、ケルトの本がたくさんあるのでなるほどと思う。このアーサー王伝説にもケルト的要素が多く含まれているといえるのだろう。


 ところで、妖妃モルガン・ル・フェと類似を指摘されているケルト神話の女性は、モリーグという女神で

モリーグは、血と死を求めて戦場を冠烏の姿で飛び回る戦の女神で、ヴァハ、バズヴ、という三女神と一体になり、人間の首を食べる恐ろしい烏の姿をとるといわれています。このモリーグは、英雄ク・ホリンを 誘惑しようと、美しい女の姿となって言い寄りますが、拒絶されると(中略)邪魔をし、悩ませます。(p.278)」

 という事なのだけれど、山岸凉子『妖精王』の中で描かれているハーピーたち[6]はこのモリーグ、ヴァハ、バズヴのことなんだな。

 しかし、こんなにも長い間、人々に愛される英雄アーサーの物語が、いわゆる悲劇で終るというのは何とも切ない気がする。

 だからこそ、アーサーを完全に黄泉の国に送るのではなく、アヴァロンという異界――妖精の国――へ行かせる事にしたのだろう。
 そうして初めて彼は、「過去ノ王ニシテ未来ノ王」となるのだ。

 

notes

[1] ひとつ前の覚書は『アーサー王の死』
 

[2] まるで己の意見の如く書かれているが何の事はない、「そう読むと勉強になるよ」と昔(10代の頃)知人にアドバイスしてもらった。
[3] 聖杯伝説やトリスタンとイゾルデの悲恋物語等々。
[4] なぜ「やっと」かというと、氷室冴子の『恋する女たち』に、主人公おタカに恋する少年、ザキの事をおタカさんは、彼は自 分の姉の事が好きで、さしずめ自分は「白い手のイゾルデ」だ、そんなのはごめんよ…と言っているシーンがあって、ずっとトリスタンとイゾルデの物語を読も うと思っていたため。しかし、読んでいるとこのトリストラム卿と恋仲のイゾルデ妃ではない、、方のイゾルデ妃のことが「白い手のイゾルデ」と呼ばれていると言う事だから、手の届かない叔父マーク王の妻の事ではないと思う。とするとおタカさんのいう「白い手のイゾルデ」は違うのではないか。
伯父マークの妻(トリスタンの恋人)=「美しきイソウド」
トリスタンの妻=「白い手のイソウド」
(p.176)

恋する女たち (集英社文庫―コバルトシリーズ)

恋する女たち (集英社文庫―コバルトシリーズ)

 

[5] 本文中では「ク・ホリン」
[6] この女面獣(ハーピー)は
”速き者”のオキペタ
”黒”のセレノ
”嵐”のアエロ
の三姉妹で、爵(じゃっく・主人公)を食べようとする。
山岸凉子『妖精王2』(白泉社花とゆめコミックス)より