愛は望郷のかなたに―パーフェクト・ファミリー―
今回のパーフェクト・ファミリーは、前回のマックス編でちらりと登場していた男・デイビット編です。この人は恐らく始めの段階で登場しているのだろうけれど、覚えがない。ジョナサンの双子の兄としての認識しかなかった。
ハーレクイン小説だけあって、このデイビットも今回の物語で驚くほど改心している。マックスの次はデイビット……やはりHQに悪人は出てこないのだろうか。
愛は望郷のかなたに (ハーレクインプレゼンツスペシャル―パーフェクト・ファミリー (PS13))
- 作者: ペニー・ジョーダン,霜月桂
- 出版社/メーカー: ハーレクイン
- 発売日: 2002/02
- メディア: 新書
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改心したと言っても、マックスの時より多少マシといえるのは、デイビットがいきなり臨死体験によって善人に生まれ変わる、というような、言ってみれば安易な変化によって改心したのではないところだろう。
イグナティウス師という、恐らく初めてありのままの彼を受け入れてくれた牧師との心の交流、そして人々に尽す肉体労働と清貧な生活の中から、罪や己の愚かさをまず認め、悔い、改め、時間をかけて、自らの勤勉さによって変化を得たのだ。
半世紀も生きてきて、どんなに信仰と身近になったからといって、数年間でこうも人が変わるものか、とも思うけれど、少なくとも、マックスの神懸かり的変化よりはずっと説得力があるし、あるいはこういうことがあるのかもしれないーー至心に懺悔し、努力しているならば――と思うことができる。また、一人の人間としてこういうこともあるのだと信じたい。
そういう意味では、個人的にはデイビットの変化について好意的だ。それに心理学的見地からいっても、父親の過剰な期待という重圧から逃れることで自らを見つめ、変えていく、ということは大いにあり得るのではないだろうか。
Original: "Coming Home", 2000
デイビットの変化を好意的にとらえられる理由のうち、彼が肉体労働に従事していた、ということのウェイトが高い。頭の中で何だかんだと難しいこと考えていても、人間何も変わりゃしないが、身体を動かすと違う。身体動かして気づいたこと本物だ。と思う。
それにしてもデイビットを受け入れるジョナサンは凄い。この人、聖人じゃないか?帰還したデイビットにみんなピリピリして、難色を示していたというのに、当のジョスは感想の再会しているんだから、さすがとした言いようがない。
しかしマックスといいデイビットといい、「悪人はやっぱりHQに出てこないのだろうか」、と思うようなストーリー展開だった。
けれどもそれは、作者、ペニー・ジョーダンという聡明な女性が、純粋に人の善良な心というもの、他者に対する愛情というもの、人間は心の中に純真を持ちえ、その美しい内面を磨き、表面化する可能性は決して絶えないーーという、いわば人の持つ可能性というものを信じているということの表れなのだろう。こういう、凄く前向きで温かい心を「人間」に注ぎ続けいているのが、この作者なのだ。少々理想主義っぽいとも言えるけれど、個人的には好感を抱くところだ。ペシミスティックになるよりずっといい。
今回もデイビットの心の動きから、クライトン家の悩み、それぞれの思いを描くのがとても素晴らしかった。心理描写に関してはさすが。
中でも、憎むべき対象の父、デイビットを絶対に受け入れまいと頑なに心を閉ざしている娘・オリビアの描き方がとってもよかった。
リビーの被害妄想的な精神状態、心の中での苦しみ、自分の追い詰め方なんて本当に絶妙。自分が同じような体験をした部分の心の動きを読んでいると、本当にこの通りだなと思う。作者が同じような体験をしたことがなくてあそこまで書けるのだとしたら、大いに驚きだ。(してないことの方が多いだろうけれど)
そしてどんどん追い詰められてしまうリビーと、彼女の闇の原因を知らずに共に悩んでしまう夫のキャスパーの物語は、なんと途中で終わってしまった。今回はデイビットの帰還がメインで、リビーとキャスパーの物語はそれにまつわるサブストーリーだから当然なのだけれど、気になる。
次回はそんなリビーとキャスパーのその後の話らしく、続きが待ち遠しい。パーフェクト・ファミリーの続きが待ち遠しいなんて初めてじゃないだろうか?
しかし、あまりにもリビー&キャスパーのエピソードが生き生きして面白かったため、メインであるはずのデイビットの帰還の物語のインパクトが薄れた感が。
え?デイビット、マックスみたいに善人になってチェスターに帰ってきたの?ふうん。ジョスは喜んで迎え入れた?さすがだねぇ。デイビットは恋人もできて結婚したんだ?やっぱりHQだね。
で終わる。要約OK!的な……。平たく言うと、主役が脇役に食われていた。
それにしもて、ハッピーエンドで終わったHQカップルのその後を描く、というのも実にペニー・ジョーダンらしい気がするものだ。ハッピーエンドのその後も、一組の夫婦には紆余曲折があるというを描くわけだ。
つくづくこの作家は、人間の心の動きというものーー「人間」そのものを描きたいんだなと思わされる。それも彼女特有の、人間の持つ力というものを信じている、プラスの見方で。
続編はいつ出るのだろうか。
Original: "Coming Home", 2000