読書百冊意自通ズ覚書

読んだあと、何かしらの余韻を残していく物語たちを、みんなどんな風に読んでいるのだろう?The note of reading one hundred books makes you understand more clearly.

青い雨傘

つくづく思うのだけれど、丸谷は文章が上手い。こう、スッと入ってくる。

 途中で少し難しい話題になっても、スッと入ってサラッと説明してまたスッと本論というか元に戻る、その辺りも絶妙だ。

 文章の学問的なことはさっぱりなのだけれど、解説の鹿島茂氏によるとこれは
「弁論術(レトリック)の定法を踏まえたもの」(p.289)
ということらしい。ふぅん。
 しかしレトリックの始めというのは「かのアリストテレス」ということだから、驚きだ。
 文章や論述というのは、近現代になって科学なんかと同じように進歩しているわけではなくて、むしろB.C.くらいの頃に確立しちゃっているのかもしれない。そこら辺のことは何せ無学なのでよくわからないけれど、現代の方が「文章を書く力が無残に低下して」いる[1]のは確かだろう。
 人間のある一面というのは、何千年も前からすでに成熟していたのである。
青い雨傘 (文春文庫)

青い雨傘 (文春文庫)

 
 
 とにかく丸谷のレトリック力云々についてはよくわからないが、日本のエッセイでレトリック構造をきちんと具えたものは「ほとんどない」が、「丸谷才一のエッセイはその数少ない例外の一つといっていい。」(p.292)とフランス文学者に太鼓判を押されると、丸谷贔屓、、としては嬉しいし、鹿島氏も「なかなか話がわかるじゃないか」などと思ってしまう。ふふふ。[2]

 本文の中で、特に気に入ったのは――これは文章の面白さ云々というよりも、個人的興味のあるなしで選ばれている――「マエストロ!」「ベェートーヴェンから話ははじまる」「昭和失言史」。
 文学者はクラシックが好きなものだな、としみじみ思わされた。しかしこの「マエストロ!」を読むとやたらと稀少だというクライバーのL.P.、欲しくなる。聴いてみたい。
 丸谷はカラヤンよりクライバーが好きなようだ。カラヤンという人は、谷川俊太郎も言ったように「かっこよすぎるカラヤン」(p.69)なのかもしれない。つい先日、テレビで見たカラヤンを思い出すと、この人、確かにかっこいい。素晴らしい指揮者だけれど、こんなにかっこいいんじゃあ、ベートーベンも演奏されて嬉しくなかったりして。

 いつも思うけれど、和田誠氏のイラストはユーモアがあって優しくていい。丸谷才一、大の贔屓イラストレーターだ。丸谷の絵も上手く描いてくれるからだろうか。

notes
[1] 覚書『日本語のために』参照。

[2] フランス文学者に対してなんという物言い。