ホルムヘッドの謎
始めの方をちょこっとだけ読み、そのままにしちゃっていた本書。なぜなら、『イギリスはおいしい』『イギリスは愉快だ』 [1]の方が面白かったからである。
しかしこの本で大発見!したのは、ロンドンを旅行していた際、個人的、ごく勝手に「島」と呼んでいたあの道路の中の島が[2]、当のイギリスでも「島」(つまり"island")と呼ばれていた、ということだ!こーふん!
そしてその興奮がひと通りおさまったのち、(やっぱりそうだよ、あれは誰が見たって島だよねぇ……)とシミジミと納得してしまったのだった。
どう見ても島だもんね、アレ。
本書には、イギリスの交通事情のことなんかも図解入りで詳しく載っていたけれど(それにしても、複雑すぎて、どうしてもあの説明文を読む気になれない。理解するのがスゴク大変だ……)、思うに、林望先生は少々イギリスに肩入れしすぎていると言えよう。
素晴しいとホめたたえるのはわかるし、それがイギリス贔屓の欲目ではなくて、客観的に見て素晴しいと言っているんだよ、と言いたいことはよくわかるけれど、でもどう読んでもイギリス好きの欲目にしか見えない。
フランス人と(イギリス人を)比較している所なんかも、しっかりイギリス好きだ。 個人的にちょっとその盲目ぶりが鼻につくかな……という感が拭えなかった。
後半は日本文学者らしく、ずいぶん飛んで、源氏のことにも触れていた。
しかしうぅむむ、これは丸谷&大野晋の対談を読んだ[3] 後に読むと、どうしてもイマイチに思えてしまう。内容も文章も、総じてバランス感覚がどうにも悪いという感じだろうか。
特に日本文学に触れ出して、「和漢混淆文」[4]的な書き方になってくると、目指しているもの、方向性はわかるけれど、どうにも文章(及び内容)のバランスが悪くて、面白味に欠けてしまう。 文章の味が出しきれていないのだ。
これが丸谷だったら、もっと上手に書評を書けるだろうなぁ、と正直、読みながら思ってしまった。
むつかしいものである。
notes
[1]『イギリスはおいしい』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、一躍話題になった。
[2] ロンドンの交差点には真ん中に「島」としか言いようのない不思議な隔離地帯がある。そのようなモノにお目にかかるのは初めてだったので、名前もわからず便宜上勝手に「島」と名付けて呼んでいた。
[3] 覚書『光る源氏の物語/上下』参。
[4] 覚書『文章読本』の中の「和漢混淆文」の事。ややこしいので、ここでは割愛する。