文学全集を立ちあげる
まずびっくりしたのは、丸谷があまりしゃべっていない、ということだ。
まぁ丸谷もお年だし、オブザーバーとして考えていたのかな、と思うけれど、それにしてもびっくりするくらいしゃべっていない。今までの対談では、だいたい丸谷の様々な知識や見解が展開されていくパターンだったと思うのだけど。
notes
[1] おかげで、この無知代表選手の私めは、中村光夫の近現代文学史以上に、ちんぷんかんぷんなところだらけだった。
[2] 読むべき本の規範のようなもの。欧米では確固たるキャノンがあるらしい。(本書抜粋を忘れたので記憶による)
挨拶はむづかしい
挨拶に関するエッセイだと勝手に思っていたが、何のことはない、丸谷が今まで実際にしてきた挨拶集だった。
「民話の主人公のやうな」
菊地武一先生をしのぶ会での挨拶
「五月の風のやうな」
村上春樹『風の歌を聴け』群像新人賞贈呈式での祝辞
「葡萄酒に当たり年があるように」
読売文学賞贈呈式での祝辞
notes
[1] 一般人には知られていないが。
[2] 一般的には、丸谷は挨拶の名手として知られているが。
アムリタ/上下
吉本ばななの前回の覚書、『うたかた・サンクチュアリ』より、個人的にはずっと面白かった。妹の元恋人・竜一郎という人がうまく書けていたし、主人公・朔美の雰囲気も良かったと思う。メッセージ性みたいなものも感じられた。
シャーロック・ホームズ最後の挨拶
シャーロック・ホームズの作品もだいぶ読んでしまったが、いつ何時その作品をひも解いても、その楽しみというものが損なわれることがない。どんな時もホームズとワトソン博士に再び巡り会える楽しみを感じさせてくれる。だからこそ、世にはシャーロキアンなる人々が存在しているに違いない。
マイ・ロスト・シティー
冒頭の「フィッツジェラルド体験」で、本書の訳者・村上春樹がいかに優れた評論家でもあるか、証明されているように思う。作品を読む前に、その内容に驚かされ、感心させられてしまった。
- 作者: フランシス・スコットフィッツジェラルド,Francis Scott Fitzgerald,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/05/01
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「氷の宮殿」
「失われた時間」
「アルコールの中で」「マイ・ロスト・シティー」
ホンモノの日本語を話していますか?
最近、「日本語について」書かれた本がちょっとしたブームになっていた。ブームの火付け役は『声に出して読みたい日本語』という本だったと記憶している。この本が売れ始めてしばらくすると、雨後の筍の如くに似たようなタイトルの本が続出した。日本語がどうとか、国語がどうとか、そういう内容の本だ。
ホンモノの日本語を話していますか? (角川oneテーマ21)
- 作者: 金田一春彦,小島武
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/04/09
- メディア: 新書
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本書は恩師に勧められ、初めて著者の本を読んだ。
国語学者というから、さぞかし小難しい書き方がされているんだろう、と半ば覚悟して本書を開いたのだけれど、予想はいい意味で裏切られた。とても軽く、著者の人柄を思わせるような読みやすい文体だったのだ。
GO
直木賞作品である。映画にもなっている。
窪塚洋介主演で話題になったけれど、個人的にはそれがよくなかった。映画は観ていないけれど、CMの効果とは恐ろしいもので、どうしても主人公が窪塚洋介でしかイメージできないし、どうがんばっても桜井も柴咲コウにしか思えないのだ。
読んでいる間、ずっと「広い世界を見るんだ」(P.15)という窪塚洋介の声が聞こえる気がした。つまり、杉原=窪塚100%、になってしまったのだ。そしてそれはあまりいいイメージではなかった。残念ながら。
加えて1を読んだ時、描き方が非常に村上春樹っぽいな、と思ったら――チャプター1なんて『風の歌を聴け』の冒頭にすごく似ているーー友人曰く、「金城一紀ってすごい村上春樹ファンらしいよ」とのこと。脱力。
ということが始めにあったので、作中の「そういえば『長いお別れ』の中で、フィリップ・マーロウが言ってた」(p.184)とか「フィリプ・マーロウなら、うまいへらず口を叩いて……」(p.186)なんていう科白が、どうも背後に村上春樹[1]を感ぜずにはおれなかった。
そういう意味で、素直にこの小説を読むことができなかったように思う。最初から何となくナナメに入って30℃だったところが、終わる頃には180℃ギリギリくらいの歪んだ視線で小説を捕らえてしまった。
こんな先入観、いらないものだとは思うんだけど。
notes
[1] 村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』が、チャンドラーの『長いお別れ』をベースにしているというのは、わりと周知のことだと思うのだが。
愛は望郷のかなたに―パーフェクト・ファミリー―
今回のパーフェクト・ファミリーは、前回のマックス編でちらりと登場していた男・デイビット編です。この人は恐らく始めの段階で登場しているのだろうけれど、覚えがない。ジョナサンの双子の兄としての認識しかなかった。
愛は望郷のかなたに (ハーレクインプレゼンツスペシャル―パーフェクト・ファミリー (PS13))
- 作者: ペニー・ジョーダン,霜月桂
- 出版社/メーカー: ハーレクイン
- 発売日: 2002/02
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改心したと言っても、マックスの時より多少マシといえるのは、デイビットがいきなり臨死体験によって善人に生まれ変わる、というような、言ってみれば安易な変化によって改心したのではないところだろう。
Original: "Coming Home", 2000
青い雨傘
つくづく思うのだけれど、丸谷は文章が上手い。こう、スッと入ってくる。
途中で少し難しい話題になっても、スッと入ってサラッと説明してまたスッと本論というか元に戻る、その辺りも絶妙だ。
本文の中で、特に気に入ったのは――これは文章の面白さ云々というよりも、個人的興味のあるなしで選ばれている――「マエストロ!」「ベェートーヴェンから話ははじまる」「昭和失言史」。
文学者はクラシックが好きなものだな、としみじみ思わされた。しかしこの「マエストロ!」を読むとやたらと稀少だというクライバーのL.P.、欲しくなる。聴いてみたい。
冒険者たち
グラスハートは1巻が出た時から読んでいた。当時もうすでにこの作家の本を読んでいなかったはずなんだけど……橋本みつるのイラスト[1]がよかったから手に取ったのだろうか。
しばらく続編が出ていなかったと思うんだけど、そのうちイラストも変わり、興味もあんまりなくなっていた。なので、ものすごく久しぶりに続きを開いた。
それは標準以上のパワーということではなく、普通の生活レベルの基礎体力でいいんだけど、そんな本ってあるんだなぁと思った。
それと、面白かった。フツーに。西条朱音、出てくると面白い。この子はナルト[2]と同じなんですね。ようするにど真ん中で主人公なのだ。西条に才能があると、読んでいて嬉しいし、楽しい。
「テン・ブランクが、こんなに満身創痍なバンドだなんて思わなかった(後略)」(p. 144)というライターの台詞は、テン・ブランクのパワーを感じました。空気が伝わってくるシーンだったな。